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自然環境中の微生物や人間と共生する微生物を理解し、持続的発展が可能な社会の形成や健康の向上に役立てるための「近畿大学統合微生物研究」

 (略称:微生物研究コア)

 地球上で人類がアプローチできるあらゆるところ、畑や公園の土、池や海水の中はもちろんですが、凍てつく高峰、深海、熱湯泉、大規模ボーリングにより到達できる地底にも、微生物は棲息しています。植物の葉の表面や根の内部にも多種多様な微生物が存在し、人や動物の腸内や皮膚表面には100兆匹もの微生物が共生しています。もちろん、一部の微生物は動植物に病気などの障害を与えますが、動植物に有用な微生物も多数存在します。

 一方、微生物の介在によりつくり出される発酵食品は、保存性が向上することや消化が良くなり美味しく食欲を刺激しすることから伝統的に食されてきました。これら発酵食品が人の健康に大きな影響をもつことも明らかとなっています。また、微生物の利用は、食品生産にとどまらず医薬品の合成やバイオ燃料の生産などにも広がり、日本だけでも8兆円の市場(GDPの約1.6%)だする試算もあります。

 ところで、近畿大学では多くの(少なくとも22名以上の)教員が微生物を研究対象として活躍しています。その知識や技術の総量は相当なものです。しかし、それら教員の所属する学部学科は少なくとも5学部10学科・1研究所に分散しているため、意見の交換をする場がないことはもとより、誰がどんな研究をしているのかさえ知らない状態が続いてきました。学部間やその所在地の物理的な距離の壁を乗り越えて、微生物を核とする近畿大学が有する生命科学の「知」の結集をはかり、豊かな未来社会に資する研究を推進するシステムが必要となっています。

① 健康・創薬・食品の微生物研究(Orange)グループ

 人間の生活環境とその増殖環境を共有する微生物、もしくは人間の体自体をその増殖環境とする微生物には、人間にとって免疫力を高めることなど健康の維持・向上に有用な菌がたくさん存在する。食中毒を始めとして様々な疾患の原因となる病原性菌も少なくない。微生物側から見た人間の健康を理解するため、腸内の善玉菌でありプロバイオティクスとしても有効だとされるビフィズス菌や乳酸菌の増殖・定着メカニズムや宿主の免疫系や健康への影響を詳細に解析し、大腸癌や潰瘍性大腸炎の発症、メタボリックシンドロームや不定愁訴と微生物関係などの解析を進める。さらに、乳酸菌などをもちいた飲むワクチンの開発も研究対象とする。また、善玉菌とされる微生物の増殖を促すプレバイオティクスとしてオリゴ糖やポリフェノール類などの探索や食品生理機能の解析、発酵食品中に含まれる機能性食品素材の探索及びその応用も検討する。人間と腸内細菌フローラの相互作用を明らかにする。

 また、微生物は新しい環境へ迅速に適応する能力をもっている。それは生物進化の原動力であり、一部は進化から獲得された能力である。ところが、これが病原性微生物に起こる場合、人の免疫系を回避し、有効だった抗生剤が無効になる原因となっている。新興感染症の原因菌の発生の原因だとも考えられている。細菌が環境に適応するために必要な情報伝達系を理解し、抗生物質の効かない薬剤耐性細菌に有効な新規な抗生物質の開発研究すること、感染性微生物と人との相互作用を明らかにすることは、感染症の抑制に必須な課題であり、本研究グループで解析を進める。

Orange

② 発酵と酵素の微生物研究(White)グループ

 微生物は無数と言っても過言ではないくらいに、多種多様である。それぞれがそれぞれの環境で生きていく中で、多種多様で特殊な物質をつくり出している。これら物質の中には人に有益な生理活性をもつものもある。例えば多くの抗生物質や抗がん剤、もしくはその基本骨格分子が微生物によって生産されている。また新たな生理活性を有する多糖類、脂肪酸、フラボノイドなどの報告も多数ある。近年ではバイオエタノールやバイオプラスチックの素材など工業やファインケミカルに使用する化学物資の生産も微生物の発酵によって行われている。

 生産される有用物質が定量であった場合、生産に関与する遺伝子の同定により生産性の向上が図られる。近年のゲノム解析やシステム生物学、合成生物学的手法の発達が、この発酵工学においても大きな技術転換を進めている。本研究グループでは、微生物が生産する生理活性物質や食品や植物に含まれる有用物質を同定し、微生物によって効率的に発酵生産する技術を構築するとともに、すでに存在する有用物質を酵素により高付加価値の物質へ変換する技術を構築する。また、炭素循環型社会の構築に必要なバイオプラスチックの生産やファインケミカルに有用な物質生産を、環境に低負荷でかつ低コストで可能とする発酵技術の構築も進める。

White

③ 土壌と植物に共生する微生物研究(Green)グループ

 土壌中からはこれまでも多くの有用微生物が分離されてきたが、探索された範囲や微生物の数は地表面積や土壌中に棲息する微生物の数と比較するとほんの一部だと考えられる。これまでに分離同定され登録されている微生物の数は、16S rDNAのメタゲノム解析から示される微生物のほんの一部にすぎず、土壌中には非常にたくさんの未知の微生物が存在していると考えられる。

 このグループでは、昆虫種特異的な殺虫タンパク質をつくり出すことで微生物農薬への利用が世界的に注目されるバチルス・チューリンゲンシスや水銀などの重金属に耐性をもつ微生物などを探索し、その有用性を明らかにする研究が行われる。また、微生物を用いて、食品性廃棄物等の未利用有機資源を農薬や肥料などの資材に変換するという環境保全型農業に向けた技術開発も進められる。他にも地質(土壌・地下水)汚染の浄化手法の有力な方法として、低コストかつ低環境負荷の手法である生物の機能を利用して環境浄化を行う技術(バイオレメディエーション)の開発も実施する。

さらに土壌中には植物と相互作用する微生物も存在する。植物の生長を促進する根粒菌や根圏微生物も存在するが、植物の成長を阻害し枯死させるような植物病原微生物も少なくない。また、栽培された野菜の品質にも微生物が影響することから、農業生産と微生物の関係は重要である。そこでこのグループでは、植物病原微生物の解析や罹病植物の病理解析、青果物の生産から消費者に届くまでの品質変化や品質制御技術開発を通して、農作物の生産の低コスト・低ストレス化を試みる。さらに、植物を用いた動物や人にストレスの少ない飲むワクチンの開発も進める。当研究グループから新たに開発された技術を農業分野に応用し,事業化することで新たな農業イノベーションを促進する。

Green

④ 海洋と海洋生物に共生する微生物研究(Blue)グループ

 淡水域や海洋域に棲息する微生物の多様性は土壌と同様に極めて高いが、土壌中の微生物ほどは探索・解析が進んでいない。つまり、海や川といった水圏は微生物の宝庫であり、微生物研究のフロンティアである。たとえば、日本近海の海溝に存在しそのエネルギー利用が期待されるメタンハイドレートは(二酸化炭素排出量を増加させないために使わないで済むならその方がいいのだが)、海底下数キロメートルにもおよぶ深さにまで存在するメタン菌によって生産され蓄積したと考えられている。

 本研究グループでは、水圏に棲息する微生物、魚類などと共生する(寄生を含め)微生物から、新たな微生物を発見してその能力を解き明かし利用する研究を実施する。特に、微細藻類や深海微生物などに棲息する極限微生物の有効利用を検討するとともに、ゲノム解析や進化の解析、有用遺伝子の解析を進める。また、水圏における微生物とサンゴなど動植物との共存共栄や干潟の水質浄化に関するエコシステムの理解を進める。クロマグロ養殖などの資源管理型漁業など産業についても、有用微生物の探索と有効利用を検討するとともに、魚類病原性微生物の感染経路の解明と防除法の構築や病原性細菌の宿主特異性に関する研究を進める。

Blue

参画メンバーの最近の業績の一部

(1) Eguchi Y, Utsumi R, Alkali metals in addition to acidic pH activate the EvgS histidine kinase sensor in Escherichia coli. J Bacteriol. 196: 3140-9,(2014).

(2) Shimada Y, Watanabe Y, Wakinaka T, Funeno Y, Kubota M, Chaiwangsri T, Kurihara S, Yamamoto K, Katayama T, Ashida H, α-N-Acetylglucosaminidase from Bifidobacterium bifidum specifically hydrolyzes α-linked N-acetylglucosamine at nonreducing terminus of O-glycan on gastric mucin. Appl Microbiol Biotechnol. 99: 3941-8,(2015).

(3) Kawai M, Higashiura N, Hayasaki K, Okamoto N, Takami A, Hirakawa H, Matsushita K, Azuma Y, Complete genome and gene expression analyses of Asaia bogorensis reveal unique response to culture with mammalian cells as a potential opportunistic human pathogen. DNA Res. 22: 357-66,(2015).

(4) Fujiwara-Nagata E, Ikeda J, Sugahara K, Eguchi M, A novel genotyping technique for distinguishing between Flavobacterium psychrophilum isolates virulent and avirulent to ayu, Plecoglossus altivelis altivelis (Temminck & Schlegel, 1846). Journal of Fish Diseases. 35:471-480,(2012).

(5) Hayakawa T, Kanagawa R, Kotani Y, Kimura M, Yamagiwa M, Yamane Y, Takebe S, Sakai H, Parasporin-2Ab, a newly isolated cytotoxic crystal protein from Bacillus thuringiensis. Curr Microbiol. 55(4):278-83,(2007).

(6) Kurata A, Kitamura Y, Irie S, Takemoto S, Akai Y, Hirota Y, Fujita T, Iwai K, Furusawa M, Kishimoto N. Enzymatic synthesis of caffeic acid phenethyl ester analogues in ionic liquid. J Biotechnol. 148(2-3):133-8,(2010).

(7) Kato A, Hayashi H, Nomura W, Emori H, Hagihara K, Utsumi R, A connecter-like factor, CacA, links RssB/RpoS and the CpxR/CpxA two-component system in Salmonella BMC Microbiology. 12: 224, (2012).

(8) Murata D, Sawano S, Ohike T, Okanami M, Ano T, Isolation of antifungal bacteria from Japanese fermented soybeans, natto. Journal of environmental sciences (China). 25 Suppl 1 S127-31,(2013).

(9) Sakamoto T, Ishimaru M, Peculiarities and applications of galactanolytic enzymes that act on type I and II arabinogalactans. Applied microbiology and biotechnology. 97(12):5201-5213,(2013).

(10) Takikawa Y, Kida S, Asayama F, Nonomura T, Matsuda Y, Kakutani K, Toyoda H, Defense responses of Aphanoregma patens (Hedw.) Lindb. to inoculation with Pythium aphanidermatum. Jouranal of Bryology. 37(1):1-7,(2015).

(11) Taniguchi A, Yoshida T, Hibino K, Eguchi M, Community structures of actively growing bacteria stimulated by coral mucus. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology. 469:105-112,(2015).

(12) Miki T, Yokokawa T, Matsui K, Biodiversity and multifunctionality in a microbial community: a novel theoretical approach to quantify functional redundancy.

Proc. R. Soc. B 281,(2014).

(13) 山田康枝,伊豆英恵, 酒類の香りとその機能性, AROMA RESEARCH, 16(1) 3-8,(2015).

(14) Kawamoto J1, Sato T, Nakasone K, Kato C, Mihara H, Esaki N, Kurihara T,

Favourable effects of eicosapentaenoic acid on the late step of the cell division in a piezophilic bacterium, Shewanella violacea DSS12, at high-hydrostatic pressures. Environ Microbiol. 13(8):2293-8,(2011).

(15) Zhu Q, Bang TH, Ohnuki K, Sawai T, Sawai K, Shimizu K, Inhibition of neuraminidase by Ganoderma triterpenoids and implications for neuraminidase inhibitor design. Scientific reports. 5:13194, (2015).

(16)Mori M, Nagata Y, Niizeki K, Gomi M, Sakagami Y. Characterization of Microorganisms Isolated from the Black Dirt of Toilet Bowls and Componential Analysis of the Black Dirt, Biocontrol Sci. 19(4): 173-9,(2014).

(17) Masaki H, Fujii Y, Wakasa-Morimoto C, Toyosaki-Maeda T, Irimajiri K, Tomura T. T, Kurane I, Induction of specific and flavivirus—Cross-reactive CTLs by immunization with a single dengue virus-derived CTL epitope peptide. Virus Research 144(1–2): 188–194 (2009).

メンバー業績
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